こんにちは ねこの静六です。
本日2020年11月16日に「サイレース」と「セレネース」の取り違えの注意喚起が出されました。10年以上前から何度も注意喚起されてきた薬剤のひとつですが、未だに医療事故が無くなりません。医療事故やヒヤリ・ハット事例には自身の職場や医療機関の改善すべきヒントが沢山詰まっています。
以下にサイレースとセレネースの取り違えに関する医療事故、ヒヤリハット事例を紹介したいと思います。その前に薬剤師賠償責任保険について簡単に触れておきたいと思います。
注意喚起文書:サイレース®とセレネース®との販売名類似による取り違え注意のお願い
薬剤師賠償責任保険に入っていれば安心ではない!
薬剤師の方は医療事故が起こった際に備えて薬剤師賠償責任保険に加入されていると思います。この保険では慰謝料や訴訟となった際の弁護士費用等が補償されます。ですが実際に保険を利用した事が無い方が多いと思います。この保険で重要な事は
医療事故に遭われた相手側の交渉は事故を起こした薬剤師と被害を受けた方との直接話し合いになるという事です。
責任の程度に関わらず、自分での交渉はかなりの困難を伴います。私の上司が過去に保険を利用した際には一週間程度はまともに勤務のシフトに入れていませんでした。
私も上司が交渉されている状況を間近で見て凄く気が引き締まった事を覚えています。
以降でヒヤリ・ハット、医療事故事例を載せています。
サイレースとセレネースの取り違えによるヒヤリ・ハット、医療事故事例はかなり多い!
事例概要1 |
【事例の内容】 11/7入院しケトアシドーシスは改善されたが反復性うつの既往があり精神科通院中である。11/8にICUから病棟へ転棟後より落ち着きなく行動し多弁傾向であり離棟・離院の特別報告を出していた。その後も自分の思い通りにならない時や行動を制止しようとする看護師に手を振り上げるといった行動がみられた。11/9夜間より現実ではないことを言い離棟行動があった。11/10の日中も落ち着きない行動が目立ち躁状態とみられ、精神科にコンサルトした結果、転科転棟が決定した。スタッフステーション内で精神科医から主治医にサイレースで眠らせて移動することを伝えられた。注射オーダは内分泌の主治医が行い、12時頃にリーダー看護師Aは指示画面でセレネース5mg1A+生食20ml静脈注射の指示を受け、指示の印刷シールを看護ワークシートに貼り担当看護師Bに伝達した。投与直前に精神科医から担当看護師Bに、薬剤量を1Aから2Aにするよう口頭で指示され13時頃にセレネース5mg2A+生食20mlを準備した。精神科医や内分泌の医師数名で患者を抑え内分泌の医師が静脈注射した。効果なく、精神科医より口頭で「もう1A投与」の指示があり担当看護師Bがセレネース5mg1A+生食20mlを準備し内分泌の医師が再度静脈注射した。しかし効果弱く、精神科医より「サイレースもう1Aいこう」と言われ、担当看護師Bは「サイレースではなくセレネースではないか」と聞き返したことで、精神科医が内分泌の主治医に伝えていた薬剤と違うことが発覚した。 【事例の背景要因の概要】 薬剤について精神科医から内分泌内科の主治医へ口頭で伝達され、指示オーダはない。 主治医の認識は、思い込みであった。(セレネースと思い込んでいたとのこと) リーダー看護師Aは主治医からの注射指示だったので精神科医にはあらためて確認していない。また、精神科医との検討の結果どのようになったのかという詳細を主治医から聞くなどの把握ができていなかった。 担当看護師Bは注射準備直前に精神科医から薬剤量を2Aにするよう言われたが、口頭指示書に記載し復唱するルールを怠った。 静脈注射の際に、担当看護師Bは医師に「セレネースです」と告げることなく無言で渡した。 精神科医より「もう1A投与」と口頭で指示された時に、担当看護師Bは「セレネース1Aと生食20mlですね」と聞き返しをせずに応じた。 【改善策】 看護師は、準備した薬剤を医師に渡す時は、薬剤名を明確に伝える。 口頭指示は規定の指示書に記載し指示内容を復唱する。 緊急で口頭指示を受けた時は、薬剤投与の6Rの原則のもと、その場で薬剤名・投与量・投与方法を繰り返し、間違いないかを確認する。 今回のように緊急で決定した時は、その経緯や今後の方針について医師と情報共有する。 主科の医師は口頭伝達するのではなく、指示入力するルールを徹底(暗黙知としない)すること。 |
事例概要2 |
【事例の内容】 「オキファスト+セレネース+生理食塩液」をオーダーしようとして誤って「オキファスト+サイレース+生理食塩液」がオーダーされた。サイレースが緩和医療領域で疼痛時の鎮静に使用される薬剤であるため、当該注射せんを監査した薬剤師Aが当日分のオーダーを払い出した。同オーダーの翌日分の注射せんを監査した別薬剤師Bが病棟担当薬剤師Cに処方内容の相談を行った。薬剤師Cが処方医に確認をとり、セレネースを処方しようとしてサイレースを処方した事が発覚した。病棟に当日分の処方の修正を行う旨の連絡をした時にはすでに「サイレース」が25分間投与されていた。 【事例の背景要因の概要】 サイレースは適応として「全身麻酔の導入、局所麻酔時の鎮静」であり、セレネースは適応として「統合失調症、そう病」と両剤ともに適応外使用であるが、緩和領域ではサイレースが疼痛緩和のための鎮静に使用される薬剤であるため(日本緩和医療学会等)「サイレース」が「セレネース」の誤りである可能性を処方医に問い合わせず薬品の払い出しを行った。セレネースは公知申請によりせん妄への適応外使用が認められているが、サイレースは公知申請等で鎮静への適応外使用が認められていないため確認を取るべきであった。配合変化や投与速度上、疑義にあたる問題がなかった。(サイレースとオキファストのPhから配合変化が起こらない事が強く予想された。48時間で持続投与であったため配合直後は問題なくても経時的に配合変化が起こっていないか(外観の変化がないか)、注意深く観察するように病棟へ電話連絡をした上で払いだしを行った。)臨床上使用される領域が異なる薬剤であったり、薬理作用や作用部位が大きく異なる名称類似薬であればそれらを根拠に疑義照会を行うが、本症例では注射箋にそのような疑義がなかった。 【改善策】 サイレース投与時に以下のコーションを表示させ、注意喚起を促す。「サイレース静注の効能・効果は、・全身麻酔の導入・局所麻酔時の鎮静よろしいですか?」 |
事例概要3 |
【事故の内容】 準夜帯で不穏になった患者に対して、不穏時の指示であるセレネース0.5A+生理食塩水50mLを投与することになり、23時10分に投与を開始した。23時30分ごろよりO2:3リットル投与下でSPO2:88%まで低下を認めたため、深夜帯看護師が訪室すると舌根沈下しており、肩まくらを入れ、口腔内より痰の吸引するがSpO2は上昇せず。酸素投与の指示に従い、O2:4リットルへ増量させSPO2:92〜93%まで上昇する。いびき様の呼吸25回/分、入眠中。 この時点で、準夜リーダー看護師が深夜リーダー看護師へ重要管理薬を申し送りをしていた際に、サイレース、セレネースの残数が異なっていることにリーダー看護師2人が気づく。23時10分に使用した薬剤を確認すると、セレネースを使用する指示だが、誤ってサイレースを使用していたことが発覚した。発覚したのは23時50分ごろであり、全量投与し終わっていた。 【事故の背景要因の概要】 確認を怠った。 患者の状態が変化しており焦っていた。 【改善策】 ・サイレースとセレネースの保管場所を変えた。(同じ場所に置かない) ・確認を徹底する。 |
事例概要4 |
【事例の内容】 癌性疼痛コントロールにてオキファスト(サイレース入り)オーダーあり。12時頃、薬局より連絡あり、オキファスト、サイレース入りは白色混濁の可能性もあるため混注時、また持続注入時も要観察でとのこと。14時13分、点滴ルート確保し、側管からオキファスト(サイレース入り)開始。14時40分、薬局の最初の薬剤師とは違う薬剤師より連絡あり。医師に注射内容を確認したところ、オーダー間違いであることが判明したとのことですぐにツルースoff。オーダー変更となり、15時23分、オキファスト(セレネース入り)開始した。 【事例の背景要因の概要】 医師がサイレースとセレネースを間違えてオーダーした。サイレースとオキファストの組み合わせは初めてだとは思ったが医師に確認しなかった。 【改善策】 12時頃、薬局から白色混濁の可能性ありと連絡がきたとき、施行したことのない組み合わせだと感じたときに医師へオーダー確認すれば良かった。医師はできれば病棟で指示を出して欲しい。注射箋とともに麻薬指示箋を出すと師長の目にも組み合わせがわかるので疑問に思うことに気づく機会が増える。また、医師と看護師の話しづらい関係性にも問題あり。 |
事例の内容5 |
処方箋上のサイレース1mgをセレネース1mgと読み間違え、セレネース1mgを調剤してしまった。 |
背景・要因 |
処方箋を見づらい角度から見ていたので単純なミスで医薬品名を読み間違えてしまった。 |
<取り違えが起こる要因>
●セレネース注は適用外使用でせん妄や興奮状態に対して使用されることがあり、サイレース静注の効能又は効果(局所麻酔時の鎮静)と間違えやすい。
●特にせん妄が夜間に発現した場合や患者さんの状態が急変した場合、焦りによる製品
名の聞き間違い、見間違い、指示間違いが起こる可能性や、投与前の十分な確認が困
難となる場合が想定される。
●錠剤では同じ規格(1mg錠)があるため、取り違えに気が付きにくい。
サイレース®とセレネース®との販売名類似による取り違え注意のお願いより引用
薬に関する安全情報は積極的に薬剤師が発信しよう!
厚労省やPmdaが以前からずっと注意喚起しているにもかかわらず、まだ同じような医療事故、ヒヤリ・ハットがなくなりません。これには薬剤師がDI情報をきちんと知る事はもちろんですが、その情報をよりわかりやすく、事務・医師・看護師などの多職種へ周知する事、また間違いが起こらないように病棟や在宅などに介入してマネジメントする事が薬剤師の責務だと思います。例えばサイレース注2mgとセレネース注5mgだったら、セレネース注5mgをハロペリドール注5mg「ヨシトミ」に変更したり、病棟のストック棚に注意喚起を付けたりと提案できるはずです。
是非積極的に情報発信して薬剤師の医療人としてのレベルアップしましょう!
今日もありがとうございました。
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